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上毛新聞「視点オピニオン21」第6回

2017.8.6上毛新聞「視点オピニオン21」第6回

医療通訳制度の課題 費用負担支え合いを

群馬の医療と言語・文化を考える会副代表 原美雪

 普段、外国の方と接点のない皆さまには医療通訳の世界は遠いものかもしれません。「もし私が外国でけがをして病院に担ぎ込まれたら…」。そう考えることですべての方が当事者になることができます。会が目指すのは医療通訳制度の普及にありますが、その先に見えるものは「困った時にはお互いさま」と言える、支え合える社会の実現です。

群馬県では、医療通訳ボランティア制度は10年を超える実績があり、100人以上の通訳者が登録されています。また地域の中で、個人的に医療通訳者として活動している方も多くいると聞いています。しかし、日本語を母語としない方々にとっては、まだまだ気軽に通訳を利用できる環境にはありません。「お互いさま」と言える社会にするためにはどういう通訳制度が必要なのでしょうか。

私たちが通訳制度の運営で直面している問題の一つは通訳費用です。現在、会が派遣している1回の通訳費用は3000円です。そのうち1000円は会が助成金などを活用して負担し、残りの2000円はほとんど患者さん負担です。ボランティアといっても、医療通訳者は命に直結した仕事であり、相当の語学力に加え医学知識も習得していなければなりません。しかし、どんなに経験を積み、勉強をしている通訳者でも、1回3000円の通訳収入では生活していけません。生活のため他の仕事につかざるを得ず、そうなると平日依頼のある医療通訳の活動は不可能です。こうした理由で医療通訳の世界から離れていってしまいます。

医療通訳はボランティアではいけない、しかし、交通費程度しか支払えない現実にいつも思い悩んでいます。

一方、経済的な理由で通訳をつけられない患者さんもいます。慢性疾患や難病など継続して診療を受ける方、妊婦健診、乳幼児健診、講習会参加など、1回2000円の負担が重荷になります。

通訳がいなければ、診療の内容を理解できません。それは、医療の倫理、患者の権利を日本語を理解しない人に保障しないことになると言っても過言ではありません。通訳費用を患者だけが負担するには無理があります。ぜひとも、社会による救済措置を検討してほしいと思います。

医療機関にもお願いしたいことがあります。①積極的に医療通訳を使っていただく②通訳者への的確な評価や研修を通して通訳者を育てていただく③資金面でも協力していただく―これらのことをぜひとも検討していただき、制度の円滑かつ継続的な運営に力を貸していただきたいと思います。そして、医療機関など直接の関係者だけでなく、「支え合う社会」のためにはいろいろな方々の力が結集されてはじめて、理想とする環境が整うのだと思います。


群馬の医療と言語・文化を考える会副代表 原美雪 前橋市三俣町

【略歴】東京都出身。東京外語大卒。外務省で在インドネシア大使館などに勤務。2013年に群馬の医療と言語・文化を考える会を立ち上げ、医療通訳の普及に尽力。

2017/08/06掲載

2017年8月11日

上毛新聞「視点オピニオン21」第5回

 2017.6.13上毛新聞「視点オピニオン21」第5回

医療通訳者の派遣 「患者第一」最善尽くす

                群馬の医療と言語・文化を考える会副代表 原美雪

 今回は、当会の医療通訳者派遣サービスの運営の様子を皆さまにご紹介します。

昨年度、当会は医療通訳者の派遣を行い、180件の実績を上げたことは前回報告いたしました。本年4月からは、これまで群馬県が行っていた医療通訳ボランティア派遣のコーディネート業務をも請け負うことになりました。通訳者を派遣する場合は、医療機関や患者さんからの依頼を受けて、通訳できる人を探します。ほとんどの通訳者は仕事をもち、平日の昼間に自由に活動できる人を探すのは容易ではありません。現在100人を超える通訳者の登録がありますが、中国語、スペイン語、ポルトガル語という需要の多い言語はもちろん、ネパール語、ベトナム語などの希少言語の依頼も対応できる通訳者は少なく、中には全く対応できない言語の依頼もあります。

当会は、私を含め2人でこのコーディネートを行っています。今日、明日にも必要という依頼がある中、通訳者の仕事や家庭環境を理解し、希望も聞きながら病院からの依頼日時などの調整を行います。通訳者がいなければ診療は成り立ちません。依頼にはできるだけこたえるという方針で通訳者が見つからない場合には、電話をかけまくり、何時間もの時間を費やすこともあります。その間にも他の依頼、通訳者・医療機関からの報告、交通渋滞や家族の事情などで急に対応できなくなった通訳者からの連絡に対応し、新たに調整をし直す作業なども入ります。コーディネーター業務なしには派遣制度は成り立ちません。通訳者の事情、医療機関の環境、患者さんの病状や生活保護など社会的課題等全てを理解して流れを把握し、起こりうる状況を想定することが必要です。

その中で、常に忘れてはならないことがあります。それは、一番大変なのは病気やけがを抱える患者さんであり、その不安を取り除くために配慮すること、患者さんのために働く医療従事者の皆さんの頑張りを応援する気持ちを持つこと、そのみなさんのために尽くす通訳者にとって最善の環境をつくることです。

病院からの評価や通訳者からの報告をもとに、よりよい制度や環境をつくるため検討を重ねることも私たちコーディネーターの大切な仕事です。乳幼児健診など子どものために欠かせない診療と治療が続き通訳費用が払えず通訳を派遣できなかったケースがありました。利用回数が多い難病や慢性疾患の患者さんに負担が多くなることも胸が痛みます。結核の治療には投薬説明など十分な理解を得る必要がありますが、通訳費用について方針は決められていません。

課題をどのように解決に結び付けるのか、今後予定されている関係者が集まる検討会議で十分な議論が行われるよう、準備したいと思います。


群馬の医療と言語・文化を考える会副代表 原美雪 前橋市三俣町

【略歴】東京都出身。東京外語大卒。外務省で在インドネシア大使館などに勤務。2013年に群馬の医療と言語・文化を考える会を立ち上げ、医療通訳の普及に尽力。

2017/06/13掲載

2017年7月7日

上毛新聞「視点オピニオン21」第4回

 2017.4.23上毛新聞「視点オピニオン21」第4回

医療通訳の普及 利用しやすい体制急務

                 群馬の医療と言語・文化を考える会副代表 原美雪

 前回「動脈」は英語で何と言いますかとお尋ねしました。当然のことですが医学用語は学ばなければ身につきません。コミュニティーで活動する場合にも、医療通訳者は命や健康にかかわる医療の場で、時には仕事を休んでも対応するという活動の重みを感じています。日頃から医学や言語に加えて医療通訳者の倫理や適切な対応を学ぶ必要もあり、専門職としての覚悟が必要です。診療の場を混乱させることなく臨機応変に文化や言語の橋渡しをするため、経験や研修も大切です。

しかしながら、社会的認知度はまだ低く、医療通訳を業とする方とは比較にならない待遇で活動をしています。

当会は、群馬県共同募金会、中央ろうきんから助成金をいただき①医療通訳制度普及のためのシンポジウムや多職種連携講習会の開催②専門職としての医療通訳者が群馬県で育つことを目指したコミュニティー通訳者養成講習会開催③言語グループの学習体制整備支援―をしています。

さらに、昨年度は患者や医療機関の皆さんが医療通訳を利用しやすい環境をつくるため、医療通訳者の試用無料派遣を行いました。医療通訳者が社会で必要とされる件数やその現状を把握するためでした。昨年4月から本年2月までに180件の依頼を受けました。高崎、太田、前橋、伊勢崎、藤岡、桐生、足利などの医療機関において、中国語、スペイン語、ポルトガル語、英語、タガログ語、ネパール語、インドネシア語、フランス語、ロシア語など多様な言語で対応しました。

診療科は整形外科、産婦人科、内科、眼科、歯科、精神科など多岐にわたり、手術や入院になった方もいました。

派遣を通して①病院をいくつも回り、ようやく診断・治療につながったケース②難病や悪性腫瘍の患者など今後通訳費用の負担軽減が検討される必要があると思われたケース③一日がかりや夜間から夜中にわたるケース―など患者にも通訳者にも相当かつ適切な配慮が必要とされる現場を確認することができました。

外国の方の命や健康にかかわるコミュニティーの医療通訳の普及には、保険など解決すべき課題があります。社会の制度として県や市町村など行政、病院・診療所、国際交流協会、外国人支援団体、企業、市民が協力して体制を作る必要があります。関係方面が同じ机に座り、多角的に協議をすることが不可欠です。

厚労省や観光庁、経産省が進める病院の外国人受け入れ体制整備事業を地域につなげることも可能でしょう。

日本の人口減を背景に、外国人労働者の受け入れが進む中、現状や今後の推移も見極めながら、教育・医療等福祉予算と税収、医療通訳利用と医療経済など問題の本質を見極めながら、今地域で何をするべきかという議論が必要だと思います。


群馬の医療と言語・文化を考える会副代表 原美雪 前橋市三俣町

【略歴】東京都出身。東京外語大卒。外務省で在インドネシア大使館などに勤務。2013年に群馬の医療と言語・文化を考える会を立ち上げ、医療通訳の普及に尽力。

2017/04/23掲載

2017年7月7日

上毛新聞「視点オピニオン21」第3回

2017.3.1上毛新聞「視点オピニオン21」第3回

外国人の医療受診 言葉の壁で負担や悩み

                   群馬の医療と言語・文化を考える会副代表 原美雪

 医療通訳は患者の権利や人権を守り、命を守るという意味で司法通訳同様に特殊な側面があります。通訳者は医学を理解し、患者さんが話す言葉や文化を理解することが必要とされます。大学や通訳養成機関で医療通訳者教育が進んでいますが、国家資格はまだ検討段階です。

群馬ではどのような医療通訳が行われているのでしょうか。県の医療通訳ボランティア制度、市町村や国際交流協会の相談員による対応、全国組織のAMDA国際医療情報センターの電話通訳、病院スタッフの通訳者、地域コミュニティーや業者の通訳、患者さんの家族や友人の通訳などさまざまです。患者さんもまた、日本に定住する日本語を母語としない方、観光客、治療目的に訪日する外国人などいろいろです。

私は県の医療通訳ボランティア、東京外国語大学のコミュニティー通訳として活動を始めました。つまり地域で暮らす方のための通訳です。

その活動の中から見つけた課題を解決するため、通訳ボランティアの有志で4年前に医療通訳を普及するための団体を立ち上げました。

通訳をするたびに、たくさんの課題が見つかりました。

通訳者は守秘義務があります。それでも私は、通訳者だからこそ聞くことができる患者さんの声なき声を社会に伝えることは大切なことだと思います。もちろん、さまざまなケースをそのままお伝えすることはできませんが―。

通訳がいなかったため本来つながるべき診療科に送られず、受け入れ病院も決まらず、不要な検査が行われ、異なった診断で患者さんや本国の家族にまで不要な心理的負担がかけられていたケース。休日、夜中に泣く子どもを連れて、雪の中を他県の、もと通っていた病院まで連れて行った親御さん。薬を飲んで体調が悪いと電話をかけてきた妊婦さん。病院に行ったけれど、言葉が通じないためにあきらめて帰ってきた患者さん。日本語を母語とする子ども対象の知能検査をそのまま通訳を通し受けた子ども。母国の言葉や文化を大切にできない環境で、ゲームを友達にしていた小さな彼。「友だちに叩(たた)かれることがいやで、話をしても誰も聞いてくれない」とようやく小さな声で言った彼。病院では当初「少し乱暴な行為があるとの学校からのお話です」と紹介をされました。乱暴だったのは彼ではなく、彼を取り囲む環境でした。

病院の診察室にまでたどり着かないところで、外国の方が困っているこのような現状は、誰も把握していません。

病院では「患者さんが通訳を連れて来ますから困りません」とよく言われます。

家族や友人、会社の人が何とか対応できたとして、はたして医学用語を正しく通訳できる方はどのくらいいるでしょうか。問題です。「動脈」は英語で何と言いますか?


群馬の医療と言語・文化を考える会副代表 原美雪 前橋市三俣町

【略歴】東京都出身。東京外語大卒。外務省で在インドネシア大使館などに勤務。2013年に群馬の医療と言語・文化を考える会を立ち上げ、医療通訳の普及に尽力。

2017/03/01掲載

2017年7月7日

上毛新聞「視点オピニオン21」第2回

 2017.1.7上毛新聞「視点オピニオン21」第2回

情報と言葉必要時に利用本位で

                    群馬の医療と言語・文化を考える会代表 原美雪

7年前、2度目の群馬での新しい生活が始まりました。仕事の傍ら、前橋市国際交流協会の日本語ボランティア、群馬県の医療通訳ボランティアとして活動を始めました。外国の方を日本の社会につなぐ活動です。日本で生活する皆さんの背景を理解し、必要な情報は何なのかを把握することが大切になります。

群馬大の多文化共生推進士養成講座や母校の東京外国語大の多言語・多文化社会専門人材養成講座で学ぶ機会に恵まれ、日本に住む外国の方を理解するには、多文化共生の視点から日本社会を捉える方法があることを知りました。

1980年・90年代、日本経済が繁栄する中、入管法の改定を経て工場などで働く中南米の日系の人々、アジアから来日する人々が急速に増えました。彼らはやがて家族と日本に定住し、生活者として私たちと共に生きる人々となったのです。

留学生や日本人の配偶者、企業や工場で働く方、技能実習生、経済連携協定のもと外国人看護師・介護士として学び、働く人など、実にさまざまな方が私たちの周りで生活し、日本の社会を支えています。それぞれの社会で生活を楽しみ、仕事や交流の機会を持ちながら刺激し合えるような関係が発展してほしいと思います。

今、日本全国の在留外国人数は約230万人。群馬県では4万8000人を超えています。群馬では、国籍別ではブラジル、中国、フィリピン、ペルー、ベトナムの順、東部地域では圧倒的に中南米の方、西部・北部ではアジア系の方が多く住んでいます。

外国の方に「日本の生活はどうですか」と尋ねる調査が長年、日本全国、さまざまな機関で行われています。

外国の方が不安に思い、必要とする情報は、安心・安全に生活するためになくてはならない医療や福祉、労働に関するものです。日本に長年住む方でも答えは同じです。なぜなのでしょう。

一つの理由は言葉にあります。日本語はとても習得が難しい言葉です。流ちょうに話ができても、ひらがな・漢字・かたかなまで使いこなす方は多くはありません。日本語を母語とする私たちには、そこが理解できません。

仕事に忙しい方は日本語を学ぶ機会がありません。一つ屋根の下で暮らす家族の中でも、日本で生まれ育った世代が親の世代とコミュニケーションが十分にとれないという状況が生じています。ともに暮らす社会を考える時、私たちはこの事実をしっかり認識することからスタートしなければなりません。

また、情報は利用者中心に集め直し、必要とされる時と場所で、アクセスしやすいツールとわかりやすい言葉で届けられてこそ生かされます。ワン・ストップ・サービスは情報格差の解消にも有効な、人にやさしい環境です。


群馬の医療と言語・文化を考える会代表 原美雪 前橋市三俣町

【略歴】東京都出身。東京外語大卒。外務省で在インドネシア大使館などに勤務。2013年に群馬の医療と言語・文化を考える会を立ち上げ、医療通訳の普及に尽力。

2017/01/07掲載

2017年7月7日