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上毛新聞「視点オピニオン21」第3回

2017.3.1上毛新聞「視点オピニオン21」第3回

外国人の医療受診 言葉の壁で負担や悩み

                   群馬の医療と言語・文化を考える会副代表 原美雪

 医療通訳は患者の権利や人権を守り、命を守るという意味で司法通訳同様に特殊な側面があります。通訳者は医学を理解し、患者さんが話す言葉や文化を理解することが必要とされます。大学や通訳養成機関で医療通訳者教育が進んでいますが、国家資格はまだ検討段階です。

群馬ではどのような医療通訳が行われているのでしょうか。県の医療通訳ボランティア制度、市町村や国際交流協会の相談員による対応、全国組織のAMDA国際医療情報センターの電話通訳、病院スタッフの通訳者、地域コミュニティーや業者の通訳、患者さんの家族や友人の通訳などさまざまです。患者さんもまた、日本に定住する日本語を母語としない方、観光客、治療目的に訪日する外国人などいろいろです。

私は県の医療通訳ボランティア、東京外国語大学のコミュニティー通訳として活動を始めました。つまり地域で暮らす方のための通訳です。

その活動の中から見つけた課題を解決するため、通訳ボランティアの有志で4年前に医療通訳を普及するための団体を立ち上げました。

通訳をするたびに、たくさんの課題が見つかりました。

通訳者は守秘義務があります。それでも私は、通訳者だからこそ聞くことができる患者さんの声なき声を社会に伝えることは大切なことだと思います。もちろん、さまざまなケースをそのままお伝えすることはできませんが―。

通訳がいなかったため本来つながるべき診療科に送られず、受け入れ病院も決まらず、不要な検査が行われ、異なった診断で患者さんや本国の家族にまで不要な心理的負担がかけられていたケース。休日、夜中に泣く子どもを連れて、雪の中を他県の、もと通っていた病院まで連れて行った親御さん。薬を飲んで体調が悪いと電話をかけてきた妊婦さん。病院に行ったけれど、言葉が通じないためにあきらめて帰ってきた患者さん。日本語を母語とする子ども対象の知能検査をそのまま通訳を通し受けた子ども。母国の言葉や文化を大切にできない環境で、ゲームを友達にしていた小さな彼。「友だちに叩(たた)かれることがいやで、話をしても誰も聞いてくれない」とようやく小さな声で言った彼。病院では当初「少し乱暴な行為があるとの学校からのお話です」と紹介をされました。乱暴だったのは彼ではなく、彼を取り囲む環境でした。

病院の診察室にまでたどり着かないところで、外国の方が困っているこのような現状は、誰も把握していません。

病院では「患者さんが通訳を連れて来ますから困りません」とよく言われます。

家族や友人、会社の人が何とか対応できたとして、はたして医学用語を正しく通訳できる方はどのくらいいるでしょうか。問題です。「動脈」は英語で何と言いますか?


群馬の医療と言語・文化を考える会副代表 原美雪 前橋市三俣町

【略歴】東京都出身。東京外語大卒。外務省で在インドネシア大使館などに勤務。2013年に群馬の医療と言語・文化を考える会を立ち上げ、医療通訳の普及に尽力。

2017/03/01掲載

2017年7月7日

上毛新聞「視点オピニオン21」第2回

 2017.1.7上毛新聞「視点オピニオン21」第2回

情報と言葉必要時に利用本位で

                    群馬の医療と言語・文化を考える会代表 原美雪

7年前、2度目の群馬での新しい生活が始まりました。仕事の傍ら、前橋市国際交流協会の日本語ボランティア、群馬県の医療通訳ボランティアとして活動を始めました。外国の方を日本の社会につなぐ活動です。日本で生活する皆さんの背景を理解し、必要な情報は何なのかを把握することが大切になります。

群馬大の多文化共生推進士養成講座や母校の東京外国語大の多言語・多文化社会専門人材養成講座で学ぶ機会に恵まれ、日本に住む外国の方を理解するには、多文化共生の視点から日本社会を捉える方法があることを知りました。

1980年・90年代、日本経済が繁栄する中、入管法の改定を経て工場などで働く中南米の日系の人々、アジアから来日する人々が急速に増えました。彼らはやがて家族と日本に定住し、生活者として私たちと共に生きる人々となったのです。

留学生や日本人の配偶者、企業や工場で働く方、技能実習生、経済連携協定のもと外国人看護師・介護士として学び、働く人など、実にさまざまな方が私たちの周りで生活し、日本の社会を支えています。それぞれの社会で生活を楽しみ、仕事や交流の機会を持ちながら刺激し合えるような関係が発展してほしいと思います。

今、日本全国の在留外国人数は約230万人。群馬県では4万8000人を超えています。群馬では、国籍別ではブラジル、中国、フィリピン、ペルー、ベトナムの順、東部地域では圧倒的に中南米の方、西部・北部ではアジア系の方が多く住んでいます。

外国の方に「日本の生活はどうですか」と尋ねる調査が長年、日本全国、さまざまな機関で行われています。

外国の方が不安に思い、必要とする情報は、安心・安全に生活するためになくてはならない医療や福祉、労働に関するものです。日本に長年住む方でも答えは同じです。なぜなのでしょう。

一つの理由は言葉にあります。日本語はとても習得が難しい言葉です。流ちょうに話ができても、ひらがな・漢字・かたかなまで使いこなす方は多くはありません。日本語を母語とする私たちには、そこが理解できません。

仕事に忙しい方は日本語を学ぶ機会がありません。一つ屋根の下で暮らす家族の中でも、日本で生まれ育った世代が親の世代とコミュニケーションが十分にとれないという状況が生じています。ともに暮らす社会を考える時、私たちはこの事実をしっかり認識することからスタートしなければなりません。

また、情報は利用者中心に集め直し、必要とされる時と場所で、アクセスしやすいツールとわかりやすい言葉で届けられてこそ生かされます。ワン・ストップ・サービスは情報格差の解消にも有効な、人にやさしい環境です。


群馬の医療と言語・文化を考える会代表 原美雪 前橋市三俣町

【略歴】東京都出身。東京外語大卒。外務省で在インドネシア大使館などに勤務。2013年に群馬の医療と言語・文化を考える会を立ち上げ、医療通訳の普及に尽力。

2017/01/07掲載

2017年7月7日

上毛新聞「視点オピニオン21」第1回/8回

群馬県の皆さんに愛されている地元紙上毛新聞で、毎年さまざまな分野の方が活動や意見などをリレーで1年に数回ご紹介する「視点オピニオン21」というコラムがあります。原が昨年の11月から書かせていただいているものをご紹介致します。私が医療通訳の活動に込める気持ちを綴っています。お読みいただけると嬉しいです。皆様からのご意見もお待ちしております。

2016.11.17 上毛新聞「視点オピニオン21」第1回

医療通訳との出会い―安心できる受診態勢を

                                                         群馬の医療と言語・文化を考える会代表 原美雪

 私が言葉と医療について考えたのは20代、仕事で研修に出たインドネシアでの出来事が始まりです。今から30年以上も前の話です。外務省のインドネシア専門職として首都ジャカルタでの研修の後、ボロブドゥール遺跡で有名なジョグジャカルタの大学に転学しました。

大学での生活にも慣れたころ、高熱を出し、動けなくなりました。日本から持参していた抗生物質や解熱剤、ビタミン剤などを飲んでも熱は下がりません。

自分の症状を伝え、どこの病院の何科が信頼できるものなのか、尋ねることができず、病院に行くことはできませんでした。日本人の友人が見舞に来てくれましたが、病院に行くことを勧める人はいませんでした。

移転後、本来ならば一番先に知っておくべきことを、うかつにも全く調べていませんでした。外務省の研修生としては失格です。ジャカルタに行けば大使館の医務官もいるのですが、飛行機に乗る元気もありません。

食事もできずにいると、下宿のお母さんが「かわいそうに」と言って石で背中をこすり薄荷の液体を塗ってくれました。民間療法です。これは後に中医学を学ぶようになり、解熱の治療法であることを知ります。数日して熱は下がりましたが、あの時の心細さは今でも忘れられません。

結婚後、中国北京に転居になると、風邪をこじらせ両膝が腫れ、歩けなくなりました。当時日本の無償資金協力で建てられた中日友好病院(現中日医院)に行くと、日本語のできるスタッフが診療に同席し、通訳をしてくれました。これが、私にとって初めての医療通訳との出会いです。

膝の痛みの上に体調不良でつらい中、症状を言葉にできない、医師の言葉がわからないという三重苦を味わうことなく、治療を受けられたのは大変ありがたいことでした。

おかけで様子がわかり、その後、針灸(しんきゅう)や漢方薬の治療まで安心して受け、時間はかかりましたが、膝を治していただきました。中医学の世界にすっかり魅せられた私は、その後帰国して、専門学校に入り、鍼灸師として新しいスタートを切ることになります。

通訳を介して安心して診療を受けられたという初めの環境がなければ、鍼灸師としての今の私もなかったかもしれません。言葉は大きな力を持つものです。

世界が狭くなり、人の出入りも頻繁になる中、病気やけがでつらい時、病院で言葉に不自由なく治療を受けられるということは欠かせないものです。それは患者さん本人にとってはもちろんのこと、医療関係者にとっても大切なことであることを皆さんも既にお気付きだと思います。

これから数回に分けて、群馬県での医療通訳普及についての会の活動を皆さんにお伝えしたいと思います。


群馬の医療と言語・文化を考える会代表 原美雪 前橋市三俣町

【略歴】東京都出身。東京外語大卒。外務省で在インドネシア大使館などに勤務。2013年に群馬の医療と言語・文化を考える会を立ち上げ、医療通訳の普及に尽力。

2016/11/17掲載

2017年7月7日